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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)3437号 判決 1997年5月28日

原告

洪仁成

外一一七名

右原告ら訴訟代理人弁護士

丹羽雅雄

大川一夫

裴薫

井上二郎

上原康夫

永嶋里枝

小田幸児

被告

右代表者法務大臣

松浦功

右指定代理人

山元裕史

外六名

主文

一  本件訴えのうち、被告が原告ら主張の立法措置を講じないことが違憲であることの確認を求める部分をいずれも却下する。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(一)  原告らと被告との間において、それぞれ、各原告らが属する普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権をその原告が有することを確認する。

(二)  原告目録(一)(二)記載の原告らと被告との間において、それぞれ、右各原告が属する普通地方公共団体の議会の議員及び市町村長の被選挙権をその原告が有することを確認する。

(三)  原告目録(一)記載の原告らと被告との間において、それぞれ、右各原告が属する都道府県知事の被選挙権をその原告が有することを確認する。

2  原告らと被告との間において、原告らの属する普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権並びに被選挙権の各行使を可能にする立法措置を被告が講じないことは違憲であることを確認する。

3  被告は、原告ら各自に対し、それぞれ一〇万円及びこれに対する平成七年四月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  右第3項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

(一) 請求の趣旨第1項及び第2項の訴えをいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

2  本案の答弁

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

(三) 仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、いずれも、日本国の旧植民地(朝鮮)出身者及びその子孫で、特別永住許可資格者ないし一般永住資格者であり、それぞれ長年にわたってそれぞれの住所地の市町村を生活の本拠とする定住外国人であって、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民であり、県民税、市町村民税、所得税など各種の納税義務を日本人と同等に履行している納税者である。原告らの生年月日は、それぞれ別紙原告目録(一)(二)(三)の各原告欄記載のとおりである。

2  以下のとおり、原告らには、いずれも、憲法上、あるいは条約上、各原告らそれぞれの属する普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権が保障されているほか、別紙原告目録(一)(二)記載の各原告らについては、右各原告が属する普通地方公共団体の議会の議員及び市町村長の被選挙権が、同目録(一)記載の各原告らについては、いずれも右各原告が属する都道府県知事の被選挙権(以下、これらの選挙権及び被選挙権を総称して、「地方参政権」という。)がそれぞれ保障されている。

(一) 憲法一五条一項は、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」と定めている。国民主権原理の実質は、人民による自己統治であり、政治的決定に従うものは当然その決定に参加できなければならないという民主主義の原理と結び付く、したがって、憲法の国民主権原理や同項における「国民」とは、日本国籍保持者に限らず、その政治社会における決定に従わざるを得ない社会の構成員たるすべての市民を意味する。

原告らは、日本社会に生活の本拠を有し、日本社会の構成員として定住しており、日本で働き、日本社会と地域に貢献し、各種納税義務を履行する納税者であり、日本国と地方自治体の政治、行政決定に従わざるを得ない市民、住民であるから、同項によって選挙権及び被選挙権が憲法上保障されている。

(二) また、選挙権及び被選挙権は、憲法一三条の幸福追求権に基礎付けられる。幸福追求権は、アメリカ独立宣言に思想的淵源をもつもので、消極的自由を内実とするだけではなく、国家権力から自己の権利を制限されたり義務を課される場合には、これら政治決定に参画し自己の意思を表明する権利、すなわち政治過程に積極的に参加する権利を内包している。選挙権及び被選挙権は、このような政治過程に積極的に参加する参政権のうちでも最も基本的かつ重要な基本的人権であって、政治過程に自己の意思を表明するという個人の主観的権利であり、個人の尊厳の原理と結びつき、個人の人格的生存に必要不可欠なもので、自己決定と自己実現のための不可欠の基本的人権である。このように、選挙権及び被選挙権は、自己が居住する国や地方公共団体の政治決定に従わざるをえない社会構成員である個人に対し、等しく平等に保障されている(憲法一四条)。

(三) 選挙権及び被選挙権は、憲法三〇条に由来する納税者基本権を具体化するための不可欠の基本的人権である。「代表なきところに課税なし」の理念は、近代立憲民主主義の基本原則である。納税の義務負担者は、日本国籍を有する者のみならず、日本に居住するすべての者である。課税は言うまでもなく義務を課すことであり、個人の財産権を制限することである。納税義務者には、自己が支払った租税の使途を監視し、違憲・違法の租税支出が国や地方公共団体によってなされた場合には、これを積極的に是正する権利が保障されなければならない。このように納税者基本権を具体的に実現する不可欠の手段としても選挙権、被選挙権が保障されなければならない。

(四) 憲法九三条二項にいう「住民」は、国籍のいかんにかかわらず地方公共団体の構成要素としての住民を意味する。すなわち、

憲法九二条にいう「地方自治の本旨」は、地方公共団体が自律権を有するという団体自治と、その支配意思の形成に住民が参画するという住民自治をその内実とするもであり、右地方自治の本旨に基づき、憲法九三条二項は、「地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。」と規定している。そもそも「住民」の概念は、従来から国籍とは無関係な概念として使用されてきたものであり、右地方自治の本旨からすれば、地方自治は、権力分権による権力の抑制、均衡という自由主義的契約と議会制民主主義の補完という民主主義的契約から憲法上不可欠のものとして保障されている。その意味では地方公共団体の自治権は、国と対等な関係にあり、その行使は構成員である「住民」の意思に基づくことが要請される。地方自治法(以下「自治法」という。一一〇条一項も、「住民」の意義につき、「市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする。」と規定し、同条二項では、住民の権利義務として、「住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供を等しく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負う。」と定め、地方自治の本旨に基づく住民としての権利・義務の平等を明らかにしている。原告らは、当該普通地方公共団体の住民として、納税の義務をはじめとして、「その負担を分任する義務」を果たしているのであるから、「その属する普通地方公共団体の役務の提供を等しく受ける権利」が保障されなければならない。

したがって、憲法九三条二項の「住民」は「日本国民」の下位概念としてとらえるべきではなく、国籍のいかんにかかわらずその地方公共団体を構成する者、すなわち、その区域内に住所を有する者をいうと解すべきである。定住外国人を地方公共団体の自治権行使から除外すれば、地方自治の理念の実現は極めて困難となる。

(五) 日本国が批准している「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(国際人権規約B規約、以下「B規約」という。)二五条は、「すべての市民は、第二条に規定するいかなる差別もなく、かつ、不合理な制限なしに、次のことを行う権利及び機会を有する。」と定め、その(a)において、「直接に、又は自由に選んだ代表者を通じて、政治に参与すること。」と規定しているところ、右の「すべての市民」という概念は、「国籍を有する国民」と狭く解釈すべきではなく、原告らのごとく日本国の旧植民地出身者及びその子孫であり社会の住民として定住し、労働と納税を通じて当該社会の維持・発展に寄与している者も含めて解釈すべきである。特に、地方参政権については、内外人平等を定めるB規約二六条の法の前の平等の趣旨及びその自動執行性から見ても当然に保障される。

また、原告らは、一九九三年国連・規約人権委員会が認めたように、日本社会のマイノリティーの人々である。マイノリティーが、自らの民族的・文化的アイデンティティーを確立し、発展させることは、日本政府の国際的義務でもある(B規約二七条)。そして、マイノリティーの人権を確立し、発展させるためにも、選挙権及び被選挙権が不可欠の権利として必要であり、また保障されなければならない。

3  しかしながら、自治法一一条、一八条及び一九条並びに公職選挙法(以下「公職法」という。)九条二項、一〇条は、地方参政権を有する者を日本国民に限定する旨規定し(以下「国籍条項」という。)、また、同法二一条一項は、選挙人名簿に登録される者を日本国民に限定する旨規定し、原告ら日本国の旧植民地出身者及びその子孫の地方参政権の行使を妨げている。これらの条項は、憲法一条、一五条、九二条、九三条に違反する違憲無効の条項であるばかりでなく、憲法前文に掲げられた「人類普遍の原理」等の国際主義や、同法一四条の法の下の平等主義、同法一三条の幸福追求権、同法三〇条の納税者基本権、更にB規約二五条ないし二七条の各条項に違反する。

4  被告は、原告ら定住外国人に対し、地方参政権の行使を可能にするための具体的な立法措置を直ちに講ずべき憲法上の立法義務を負っているにもかかわらず、これを履行しない。

その具体的な立法措置は、自治法、公選法の国籍条項を撤廃し、定住外国人にも日本国籍保有者と同様に地方参政権を行使することを可能とする法律の規定を設けることであって、その内容は明白である。現状は、民主制の実現が阻害されている事態であって、司法による事前救済の必要性が顕著であり、他に救済手段もない。

したがって、右の立法不作為は、明らかに憲法、B規約に違反する違憲の状態である。

とりわけ、明治四三年(一九一〇年)の日韓併合以来、内地にいる外地人としての朝鮮人は、日本国籍を有する帝国臣民となり、選挙権・被選挙権及び公職就任権を有していたが、日本の敗戦後、昭和二〇年一二月一七日に公布された衆議院議員選挙法改正法は、法的には日本国籍者であった旧植民地出身者の参政権を一方的に停止し、昭和二二年五月二日に公布された外国人登録令は、出入国管理及び外国人登録上旧植民地出身者を管理・登録・取締りの対象とし、更に、昭和二七年四月二八日のサンフランシスコ講和条約発効による日本の主権回復に伴い発せられた法務省民事局長通達「平和条約の発効に伴う朝鮮人、台湾人等に関する国籍及び戸籍事務の処理について」(昭和二七年四月一九日法務省民事甲四三八号)は、一方的に旧植民地出身者の日本国籍を喪失させ、以後も現在に至るまで、日本政府は、戦争責任・戦後責任を処理せず、原告ら旧植民地出身者又はその子孫に対して、地方参政権を含む政治的・社会的権利を侵害し、差別する政策を維持している。

このような旧植民地出身者及びその子孫である原告らの在留原因の特殊性と歴史的経緯等を考えると、現在に至るまで原告らの地方参政権の行使を妨げている事実は、立法不作為の違憲・違法に当たることは明らかである。

5  被告は、右の立法不作為により、原告らの地方参政権の行使を妨げ、右権利を侵害しているが、これは国家賠償法上も違憲、違法であり、原告らはこれにより著しい精神的苦痛を受けた。これを金銭に評価すれば各自一〇万円を下らない。

6  よって、原告らは、無名抗告訴訟として、被告との間において請求の趣旨1項及び2項の確認を求めるとともに、国家賠償法一条に基づき、被告に対し、損害賠償として、各自一〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成七年四月二八日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  被告の本案前の主張

本件訴えのうち、請求の趣旨第1項及び第2項の各訴えは、以下のとおり不適法で却下を免れない。

1  本件の場合、原告らが右各訴えにおいて確認の対象ないし基礎としている地方参政権は、わが国に在留する外国人一般に共通の地方参政権であり、しかも、もともと参政権(選挙権、被選挙権)そのものは抽象的なものであって、特定の選挙についてその権利行使が妨げられることによって権利侵害が具体化するものである。にもかかわらず、右各訴えは、一般的抽象的な選挙権、被選挙権そのものが害されていることを理由とするものであって、争訟としての具体性にも欠ける。原告らと被告との間においては、地方参政権の行使に関して法令を適用することによって解決し得べき具体的権利義務に関する紛争は何ら存しないから、本件各訴えは法律上の争訟とはいえない。

2  憲法三二条の「裁判を受ける権利」に照らして無制約に無名抗告訴訟が許容されるとの原告らの主張は現行法の解釈として到底採り得ない。

無名抗告訴訟といえども抗告訴訟の一形態である以上、「公権力の行使に関する不服の訴訟」でなければならないところ、本件確認の訴えは、何ら公権力の行使又は不行使に不服を申し立てる訴えではないから、行政事件訴訟法三条一項にいう「行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟」でないことは明らかであり、このような訴えが無名抗告訴訟として許容される余地はない。

また、本件不作為の違憲確認を求める訴え(請求の趣旨第2項)は、いかなる「公権力の行使」に関する不服の訴訟であるのか明確でない。右訴えは、国会の立法行為につきその不作為の違憲確認を求める訴訟として、その実質において国会に右のような立法義務があることの確認を求める無名抗告訴訟の一類型たる義務確認訴訟と解する余地がないでもないが、このような訴訟が許容されるためには、①行政庁に第一次判断権を行使させるまでもないほど処分要件が一義的に決まっていること、②損害が差し迫っていて、事前に救済しなければ回復し難い損害が生ずること、③他に救済手段がないこと、以上の各要件が必要であると解されている。仮に、行政事件訴訟法三条一項の「行政庁」に国会も含まれるとの解釈を採るとしても、いかなる立法措置を講じるかは、広範な社会的政治的情勢に基づく諸般の政治的、立法的配慮と専門技術的判断を要する事柄であって、国会の広範な裁量に委ねられるべき事柄である。したがって、原告らが主張するような立法措置を講じないことが違憲であることが憲法上一義的に定まっているとはいえず、義務確認訴訟としても許容される余地はない。

3  無名抗告訴訟も、行政事件訴訟法三条一項の「行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟」であることには変わりはないから、同法三八条一項に基づき、同法一一条の準用がある。したがって、原告らが本件各確認の訴えにおいて、行政庁ではない国を被告としている点からも右各訴えは不適法である。

三  被告の本案前の主張に対する原告の反論

1  憲法三二条の裁判を受ける権利は、日本国憲法の定める違憲審査制のもとにおいては、憲法上の実体的基本権を守るための出訴及び訴訟追行を保障した手続的基本権であり、いわば「基本権を守るための基本権」と解されるものである。地方参政権という原告らの実体的基本権が侵害されているという違憲・違法状態が現に存在すると考える場合、原告らが裁判所にその地位の確認及び違憲の確認を求めて出訴することは、まさに原告らに保障された基本権実現のための手続的基本権の行使に他ならず、憲法八一条の違憲審査制のもとにおいては、当然裁判所の違憲審査を受ける機会が保障されなければならない。したがって、憲法の下位規範である行政事件訴訟法等の実定訴訟法の解釈において、訴訟要件、訴訟類型を制限的に解して実体的司法審査(本案審理)を回避することは許されない。

2  原告らは、地方参政権を侵害されているのであるから、本件訴えは、具体的権利の存否に関するものであるとともに、既に裁判による解決になじむ段階に達しており、事件としての成熟性も十分であって、争訟性の存在は明らかである。

3  原告らが地方参政権を有することの確認及びその行使を可能にする立法措置を講じないことが違憲であることを確認する判決がされることにより、被告は同判決に拘束され、その違法状態を解消すべき義務を負い、その結果原告らの地方参政権の行使が可能となることで本件争訟は解決される。本件の訴えは、原告らの憲法上の権利の侵害に対する効果的救済方法という観点からみて、有効、適切なものであるから、確認の利益がある。

4  行政事件訴訟法三条一項においては、抗告訴訟は行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟と定義されているが、これは法定抗告訴訟の場合を前提にしたものであって、訴訟類型が極めて多様かつ多義的である無名抗告訴訟には必ずしも妥当せず、本件のような無名抗告訴訟においては被告が国であることに何ら差し支えはない。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は不知。

2  同2のうち、原告らの引用する憲法及び自治法の規定の文言が原告ら主張のとおりであること、B規約を日本国が批准していること、同規約二五条に原告ら主張のような文言の存在することは認め、その主張は争う。

3  同3のうち、自治法一一条、一八条、一九条及び公選法九条二項、一〇条、二一条一項が国籍要件を設けていることは認めるが、その主張は争う。

4  同4及び5はいずれも争う。

五  本案についての被告の主張

1  憲法の国民主権の原理における国民とは、日本国民すなわち我が国の国籍を有する者を意味するものであるから、憲法一五条一項の「国民」には、我が国に在留する外国人は含まれない。また、憲法九三条二項の規定も、国民主権原理を定めている憲法前文及び一条並びに公務員を選定することを国民固有の権利とする憲法一五条一項から直接派生した条項であって、国民主権の枠組みの中で国民に対し、その居住する区域の地方公共団体の公共的事務を自ら処理することを保障したものと解するのが相当であるから、同項が地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙権を保障した「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解すべきであって、憲法一五条一項における「国民」とは全体と部分の関係にあり、両者は質的に等しいものである。このように解することは何ら憲法九二条にいう地方自治の本旨と矛盾しない。

また、右の憲法一五条一項の解釈によれば、憲法一三条一項は原告らのような特定の外国人について選挙権、被選挙権を保障する趣旨を含むとは解し得ない。

さらに、憲法一四条一項は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものであれば、別異の取扱いをすることも許容していると解するのが相当であり、前記のとおり、憲法は地方参政権を日本国民に限り保障し、外国人に対しては、保障していないのであるから、日本国民と我が国に在留する外国人との間で地方参政権の有無に差異が生じても、それは憲法自体が当然許容しているものであって、何ら憲法一四条一項に反しない。

以上のとおり、憲法は、わが国に在留する外国人に対して、地方参政権を保障したものとはいえない。

また、選挙権について右のとおり解される以上、同じく憲法一五条一項によって保障される地方公共団体における被選挙権も日本国民のみに保障され、外国人にその保障が及ばないことは当然である。

2  国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではない。国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的文言に違反しているにもかからわず国会が当該立法を行うというがごとき、容易に想定し難いような例外的場合でない限り、国家賠償法一条一項の適用上違法の評価を受けない。原告らの主張する立法不作為の内容が、右にいう憲法の一義的文言に違反する例外的場合に当たるとはいえないのはもちろん、我が国に在留する永住者等の外国人について、法律をもって、地方参政権を付与する措置を講ずるか否かは、専ら国の立法政策にかかわる事柄であって、このような措置を講じないからといって国家賠償法上違法となる余地はない。

第三  証拠

本件訴訟記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  甲第一五号証の一ないし五一及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、いずれも我が国に在留する韓国籍又は朝鮮籍を有する者であることが認められる。

二  地方参政権確認の訴え(請求の趣旨第1項)について

1  原告らは、原告ら定住外国人が地方参政権を有することは憲法、条約によって保障されているにもかかわらず、公選法及び自治法が国籍要件を設けていることによって原告らの地方参政権の行使が妨げられていると主張し、被告との間で原告らが地方参政権を有することの確認を求めている。

原告らは無名抗告訴訟として右の訴えを提起するというのであるが、右の訴えは、抗告訴訟すなわち「公権力の行使に関する不服の訴訟」には当たらず、被告国との間で原告らの地方参政権という公法上の権利の存否の確認を求める公法上の当事者訴訟(行政事件訴訟法四条の「公法上の法律関係に関する訴訟」と解すべきものであるから、このように解した上で、まず、以下右訴えの適否について検討する。

2 地方参政権、すなわち地方公共団体の長及び議会の議員の選挙権及び被選挙権は、これらの者を選出するための選挙における選挙人の地位及び当選人になれる資格であって、それが現実に行使されるのは個々の選挙の際ではあるけれども、それ自体一定の具体的内容を持った個人的権利であると解すべきである。

ところで、公選法九条二項、一〇条一項、自治法一八条、一九条は、地方参政権を有する者について国籍要件を定め、公選法二一条一項は、選挙人名簿に登録される資格を有する者を日本国民に限定している。このことからすれば、我が国に在留する外国人が憲法上、あるいは条約上地方参政権を保障されているかどうかはともかく、原告らを含むこれらの者が現実に個々の選挙等において地方参政権を行使することは不可能な状況にあることは明らかである。そうすると、仮に原告らが主張するように原告ら定住外国人の地方参政権が憲法上あるいは条約上保障されているとするならば、右公選法及び自治法の諸規定が原告らの地方参政権の行使を一般的に妨げていることになるし、原告らの全部又は相当数の者については、過去の地方公共団体の長又は議会の議員の選挙において、その地方参政権の行使の機会が奪われたことになり、既に個人の具体的な権利が侵害されているということにもなるのも明らかであって、このような場合、原告らとして、個々の具体的に実施された選挙を捉えて地方参政権の侵害についての訴訟を提起できるのみで、法律上排除されていることが明らかな原告らの地方参政権の存在を、これを争う被告(国)との間で確認することができないというのでは、いかにも形式的かつ迂遠であるとの感が否めない。

選挙人名簿の登録に関する不服については、市町村の選挙管理委員会に対する異議申出の制度(公選法二四条)があり、さらに、右異議申出に対する決定については、同選挙管理委員会を被告とする名簿訴訟の制度(同法二五条)が定められている。しかし、前記のとおり我が国に在留する外国人については公選法の規定上は選挙人名簿への登録資格を有しないことが明確であり、同選挙管理委員会において公選法に基づいて選挙人名簿への登録をなしうる余地はない。したがって、原告らの主張からすると、原告らとしては、これら公選法上の不服申立手続あるいは名簿訴訟において選挙人名簿への登録を求めるよりは、端的に、公選法や自治法上の各国籍条項の規定の合憲性を問題にし、被告との間でそれぞれの地方参政権の存在の確認を求める方が、より直観的、明快であって、原告らの地方参政権の存否についての紛争を解決する適切な方法たり得るというべきである。

そうしてみると、本件における地方参政権確認の訴えは、一定の具体性をもった法的な権利義務に関する紛争として法律上の争訟性を有するというべく、端的に国籍条項を定立した被告(国)との間で原告らの地方参政権の存否の確認を求める本件訴えは、実質的な紛争解決に資するものということができる。

以上により、原告らと被告との間において原告らが地方参政権を有することの確認を求める訴えは、法律上の争訟に当たり、かつ確認の利益も認められるというべきである。

3  そこで、憲法又は条約が原告ら我が国に在留する外国人の地方参政権を保障しているかどうかについて検討する。

(一) 憲法一五条一項は、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」と規定し、選挙権が基本的人権の一つとして憲法上保障されていることを明らかにしている。被選挙権については、同項に明記されてはいないが、立候補の自由が、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持するうえで極めて重要であることから、これもまた重要な基本的人権の一つとして同項によって保障されていると解すべきである(最高裁昭和四三年一二月四日大法廷判決・刑集二二巻一三号一四二五頁参照)。そして、憲法第三章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものである(最高裁昭和五三年一〇月四日大法廷判決・民集三二巻七号一二二三頁参照)。

しかし、憲法一五条一項の規定は、国民主権の原理に基づき、公務員の終局的任免権が国民に存することを表明したものにほかならず、主権が「日本国民」に存するものとする憲法前文及び一条の規定に照らせば、憲法の国民主権の原理における国民とは、日本国民すなわち我が国の国籍を有する者を意味することは明らかである。そうとすれば、憲法一五条一項の規定は、権利の性質上日本国民のみをその対象とし、右規定による権利の保障は、我が国に在留する外国人には及ばないものと解するのが相当である(最高裁平成七年二月二八日第三小法廷判決・民集四九巻二号六三九頁参照)。

(二)  また、憲法は、第八章の地方自治における九三条二項において、「地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が直接これを選挙する。」と規定している。

しかし、前記の国民主権の原理及びこれに基づく憲法一五条一項の規定の趣旨に鑑み、地方公共団体が我が国の統治機構の不可欠の要素を成すものであることをも併せ考えると、同項にいう「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり、右規定は、我が国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙権及び被選挙権を保障したものということはできない(前記の最高裁平成七年二月二八日第三小法廷判決参照)。自治法一〇条の趣旨も何ら右判断を左右するものではない。

(三)  原告らは、旧植民地出身者及びその子孫についての在留原因の特殊性と歴史的経緯を指摘し、少なくとも日本国の旧植民地出身者及びその子孫で、特別永住資格者ないし一般永住者については、憲法上地方参政権が保障されているとの趣旨の主張もする。

確かに、戦前我が国の植民地であった朝鮮・台湾出身者が我が国に定住するに至った経緯並びに我が国を生活の本拠とするこれらの朝鮮・台湾出身者及びその子孫の現在に至る間の法的・社会的地位の変遷及び実態については、我が国の戦前の植民地政策や戦後処理政策その他の政治情勢とも重大な関わりを有し、これらに大きく影響されてきたことは疑いのないところである。しかし、右のような特殊性を考慮して右の特別永住資格者等に地方参政権を付与する立法措置を講ずるか否かについても、結局のところ立法機関の広範な裁量に委ねられた高度の政策的判断に属する事柄であるというべく、右の歴史的経緯等を考慮しても、なお、憲法上これらの特別永住資格者等に地方参政権が保障されていると解することはできない。

(四)  因みに、憲法第八章の地方自治に関する規定は、民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たものと解される。我が国に在留する外国人のうちでも前記のような特別永住資格者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められる者について、その意思を日常生活に密着な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である(前記の最高裁平成七年二月二八日第三小法廷判決参照)。

(五)  なお、原告は、定住外国人の地方参政権が保障されている根拠として、憲法一三条、一四条、九二条も挙げるが、右各条項は直接に参政権の保障について規定したものではなく、右各規定を根拠に原告らが主張する地方参政権を憲法が保障していると解することはできない。

さらに、原告らは、地方参政権は、憲法三〇条に由来する納税者基本権を具体化するために不可欠の基本的人権であるとも主張するが、原告らの主張に係る納税者基本権なるものがいかなる内容のものであり、どのような根拠に基づくものであるかも明らかでなく、納税の義務を負担することから当然に当該納税者の地方参政権が保障されるべきであると解することもできない。

(六)  次に、原告らは、B規約二五条が定める「すべての市民は、……次のことを行う権利及び機会を有する(a) 直接に、又は自由に選んだ代表者を通じて、政治に参与する権利及び機会を有すること。……(c) 一般的な平等条件の下で自国の公務に携わること。」の規定の「すべての市民」とは、「国籍を有する国民」と狭く解釈されるべきではなく、原告らのような我が国の旧植民地出身者及びその子孫のように社会の住民として定住している者も含む、と主張する。

しかし、右規定は、同規約の他の条項における「すべての人民」「すべての人間」「すべての者」「何人」という文言と特に区別して、政治に参与する権利及び機会を有する主体として「すべての市民」という文言を用いており、また、同規約の拠り所となった世界人権宣言二一条も「すべての人は、直接に又は自由に選出された代表者を通じて、自国の政治に参与する権利を有する。すべての人は、自国においてひとしく公務につく権利を有する。……」と定めている。これらに照らすと、B規約二五条の「すべての市民」には自国に在留する外国人まで含まれるものではなく、同条が自国に在留する外国人に対して地方参政権を保障しているものと解することはできない。

また、B規約二六条は憲法一四条と同趣旨の規定であり、同二七条は種族的、宗教的又は言語的少数民族に対する当該集団の文化の享受、宗教の信仰、言語の使用の権利を保障する趣旨であって、いずれも、その文言からこれが地方参政権の保障を含む趣旨でないことは明らかであり、これらのB規約の規定から、原告主張の定住外国人の地方参政権が条約上保障されていると解することもできない。

以上のとおりであり、憲法、B規約のいずれの規定によっても、原告ら我が国に在留する外国人に対して地方参政権が保障されている根拠を見出すことはできない。したがって、原告らの地方参政権を有することの確認を求める請求はいずれも理由がない。

三  違憲確認の訴え(請求の趣旨第2項)について

1  原告らは、被告において原告ら主張の定住外国人に対し地方参政権の行使を可能にする立法措置を講ずべき憲法上の義務があるのに、被告はこれを履行しない旨主張して、右不作為が違憲であることの確認を求めている。

右の訴えは、立法の不作為を公権力の行使と捉え、一定の内容の立法措置をすべき義務の確認を求める趣旨であって、いわゆる義務確認訴訟に類する一種の無名抗告訴訟と解すべきである。

ところで、このような無名抗告訴訟は、①行政庁が当該行政処分をすべきこと又はすべきでないことが一義的に明白であって、行政庁がそれについて法律上羇束されており、行政庁に自由裁量の余地が残されていないため、行政庁の第一次判断権を留保することが必ずしも重要ではないと認められ、②事前審査を認めないことによる損害が大きく、事前の救済の必要が顕著であり、③他に適切な救済方法がない、という各要件を充足する場合に限り許容されるものと解される。

2  これを原告らの、右訴えについてみると、憲法あるいは条約は我が国に在留する外国人(原告ら主張の定住外国人を含む。)に地方参政権を保障しているものではないことは前記のとおりであり、被告が原告ら主張の立法措置を講じないことが違憲であることが明白であるともいえないし、担当の国の機関が右の立法措置を講じることが法律上羇束されているとも到底いえない。結局、右措置を講ずるか否かについては、国民の間の多様な考え方その他種々の事情を踏まえ、高度の政策的判断に基づいて行われるもので、立法機関の広範な裁量に委ねられているものである。右訴えは、右1の①の要件を欠くことが明らかである。

3  また、右訴えは、そもそも行政庁ではない国を被告としており、この点においても不適法である。

4  したがって、右訴えは、いずれにしても、その余の点を判断するまでもなく、不適法な訴えとして却下を免れない。

5  なお、原告らは、本件は、原告らに保障された実体的基本権を守るための訴訟であるから、憲法三二条、八一条に照らし、本案審理を受けるべき手続的基本権が保障されるべきものであるとも主張する。しかし、前記のとおり、そもそも、憲法上も条約上も原告らに地方参政権は保障されていないから、右主張はその前提を欠き失当である。

四  国家賠償請求(請求の趣旨第3項)について

1  原告らは、被告が原告ら主張の定住外国人の地方参政権の行使を可能とするための立法措置を講ずべき義務を怠り、原告らの地方参政権を侵害していることが国家賠償法上も違法であると主張する。そこで、右の立法不作為が国家賠償法一条一項の適用上違法といえるか否かについて検討する。

2 国会議員の立法行為(立法不作為を含む。以下同じ。)が国家賠償法一条一項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって、当該立法の内容の違憲性の、問題とは区別されるべきであり、仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反する廉があるとしても、その故に国会議員の立法行為が直ちに違法の評価を受けるものではない。国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないというべきであって、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法一条一項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない(最高裁昭和六〇年一一月二一日第一小法廷判決・民集三九巻七号一五一二号参照)。

そうすると、本件においては、憲法が我が国に在留する外国人に対して地方参政権を保障していないこと、これらの者に地方参政権を付与する措置を講じるか否かは専ら立法政策に関わる事柄であり、立法機関の広範な裁量に委ねられる事項であること、この理は旧植民地出身者及びその子孫についても基本的に変わるところのないこと、以上は前記の判示のとおりである。してみると、原告ら主張の立法不作為が国家賠償法上違法とは認められないから、原告らの国家賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。

五  結論

以上の次第で、本件訴えのうち、被告が原告ら主張の立法措置を講じないことが違憲であることの確認を求める部分(請求の趣旨第2項)については不適法な訴えであるから却下し、その余の請求については理由がないからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官八木良一 裁判官加藤正男 裁判官西川篤志)

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